すらぼうの開発ノート

モバイルアプリエンジニアのメモ

ワイヤレスイヤホンのスペックについて

最近ジムでのトレーニングのお供としてワイヤレスイヤホンを購入した。

その際に調べた内容を共有する。ワイヤレスイヤホン選びの参考にしてほしい。

イヤホンのスペック

ここでは多くの人が見るであろう以下のスペックについて簡単に説明する。

ノイズキャンセリング

ノイズキャンセリングとは

外界のノイズを抑え、音楽をよりクリアにする機能。

ノイズキャンセリングは音楽を楽しむのにとても重要な要素。 人間の聴覚は、周波数帯が同じ場合音量の大きい音を認識する。そのためノイズが耳に届くと、周波数帯が近い音が聞きにくくなる場合がある。 音楽をはっきり聞くために自然と音量を大きくしがちだが、これは聴覚にダメージを与えて聴力が悪くなる原因となる。 つまりノイズが混じった状態で音楽を聴き続けると、聴力が悪くなりやすい*1場合がある。

嬉しいことにノイズキャンセリングを搭載したイヤホンは以前に比べて低価格で購入できる様になった。 なので極力小さい音で音楽を聴くためにはノイズキャンセリング機能がとても重要。

種類

ノイズキャンセリングには大きく分けて

  • PNC(パッシブ ノイズ キャンセリング)
  • ANC(アクティブ ノイズ キャンセリング)

の2種類がある。

以下でPNC、ANCそれぞれについて説明する。

PNC(パッシブ ノイズ キャンセリング)

耳を覆って物理的に外部のノイズを遮断する*2方式。「パッシブ」とは受動的という意味。

PNCは外音をどれだけ物理的に遮断できるかなので、イヤホンの形状や素材に依存する。

ANC(アクティブ ノイズ キャンセリング)

デジタル処理によって外部からのノイズを打ち消す方式。

基本的な原理は「消したい音の波と真逆の形 (逆位相) の波を発生させ、互いを打ち消す*3 というもの。

ノイズも音波なので特定の波形をしている。そこでその波形を打ち消す様な波形をソフトウェアによりリアルタイムで発生させて、ノイズだけを小さくする。

ANCはさらに以下の3種類の方式*4に分かれている。

フィードフォワード方式

ノイズの音波を取得するため、イヤホンの外部にマイクを配置する方式

マイクで集めた音波の逆位相の音を生成することでノイズを低減する。 イヤホンからはこの逆位相の音と音楽がミックスして再生され、耳には音楽だけが聞こえるという仕組み。

フィードバック方式

イヤホンの内側の耳に近い位置のマイクで音楽とノイズを取得する方式

マイクで取得した音からノイズのみを抽出し、ノイズに対する逆位相の音を生成してノイズを軽減する。 より耳に近い音の外部ノイズを打ち消すため、フィードフォワード方式よりも正確なノイズキャンセリング性能を発揮する

ただしフィードバック方式はソフトウェアへの負荷が高いため、単独のフィードバック方式のイヤホンはほとんど存在しないらしい。

ハイブリッド方式

フィードフォワード方式とフィードバック方式を合わせた方式

つまりイヤホンの内側と外側にマイクを配置して、ソフトウェアの負荷を減らしつつ効率的にノイズを減らす。

ノイズキャンセリングの強さ

どれだけノイズがキャンセルされたかは「db(デシベル)」という単位で表すことができる。 dbは音の大きさを表す単位であり、数値が大きいほど大きい音という意味になる。

なのでノイズキャンセリング機能の強弱は「-xx db」のような感じで表されることがある。 もちろんxxの数値が大きいほどノイズキャンセリング機能の効果が高いことを示す。

ただ残念なことにこのdb値は製品ページには見つけることができなかった。 イヤホンの装着方法次第で値がセンシティブに変わると思われるので、あまり意味のない数値になってしまうかもしれないが一応見てみたかった。

ネットの情報だと、ANC方式では大体「-40 db」くらい*5の性能らしい。

20 dbくらいの音だと人間は「静か」と感じるらしいので、-40 dbという消音力は大体テレビの近くでも静けさを感じられるレベル*6のようだ。

外音取り込み

外音取り込みとは

外部の音を取り込むことで、イヤホンを装着していても外の音が聞こえる機能。 この機能があると、イヤホンを装着した状態でも人と会話などができるので着脱の手間が無く楽。(相手の印象は悪いかもしれないが)

ちなみに数年前に話題になった「自転車に乗車時のイヤホンが禁止」という条例だが、基本的には外音取り込み機能がついていても禁止っぽい*7

コーデック

コーデックとは

音声データを送る際の圧縮変換方法のこと。

詳細な情報は割愛するが、コーデックは

  • ビット深度:音の解像度
  • ビットレート:1秒間に送受信できるデータ量
  • サンプリングレート:1秒間に音声データを計測する量

の3つの指標で分類される。これらの値が大きいほど、より多くの情報を扱えるので高音質な音楽が楽しめる。

種類

コーデックには複数種類が存在する。本エントリでは代表的なコーデックを紹介する。

SBC(Subband Codec)

  • ビット深度:16bit
  • ビットレート:~48kHz
  • サンプリングレート:328Kbps

全てのワイヤレスイヤホンが対応している基本的なコーデック。 他に選択肢がない場合、このコーデックで通信を行う。 遅延が大きいのが難点。

AAC(Subband Codec)

  • ビット深度:24bit
  • ビットレート:~44.1kHz
  • サンプリングレート:~320Kbps

AAC*8Appleが使用しているコーデック。ビットレートやサンプリングレートではSBCに劣るが、Apple製品はAACを効率的に実行するため、もしiPhoneAir Podsを使用している場合はこのコーデックが採用される方がバッテリー消費が少ないらしい。またSBCよりも基本的には高音質。 ただしSBC同様遅延はある程度生じる

AptX

  • ビット深度:16bit (AptX)、 ~24 bit (AptX HD)
  • ビットレート:48kHz (AptX)、 48kHz (AptX HD)
  • サンプリングレート:~384Kbps (AptX)、 576Kbps (AptX HD)

AptX*9CSR社が開発したコーデック。SBCよりも基本的に高音質。またビットレートが高い値で固定されているため遅延が少ない

ちなみにAptXにはいくつか種類が存在する。

  • AptX:標準
  • AptX LL:特に低遅延、ゲーム用
  • AptX HD:高音質

他にもあるらしいが、イヤホンで使用されることが多いのはこの3つ。

LDAC

  • ビット深度:~24bit
  • ビットレート:~96kHz
  • サンプリングレート:~990Kbps

LDAC*10はスペックのみならば現状最高品質のコーデック。Sonyが開発した。 いわゆるハイレゾはLDAC対応機器同士の通信で実現できる *11

音質は文句なしだが、対応するデバイスが限られる点が難点。

LDHC(Low latency and High-Definition audio Codec)

  • ビット深度:~24bit
  • ビットレート:~96kHz
  • サンプリングレート:~900Kbps

LDHC*12は台湾のメーカーSavitechが開発したコーデック。

比較的新しいコーデックであり、LDACとスペック上はかなり近く高音質な音楽を楽しむことができるっぽい。 ただし新しいだけあり、対応するデバイスが少ない。

注意点

特定のコーデックで音楽を聴く際には、スマホとイヤホン両方がそのコーデックに対応していなければならない。 例えばLDACで音楽を聞こうとしてLDAC対応のイヤホンを購入しても、スマホが対応していない場合にはLDACのコーデックは使用されない。

ドライバ

ドライバとは

磁力で機構内部の振動板を振動させて音波を発生させるパーツ

スペックを示す指標として振動板の口径(サイズ)が重視される。大きいほど低音の再生が得意になる(高音が苦手というわけではない)。 口径はざっくり以下のような分類がされるようだ*13

  • 5 ~ 6 mm:小さめ
  • 7 ~ 10 mm:普通
  • 10 ~ mm:大きめ

ただし大きいほど良いかというとそういうわけではなく、「イヤホンのサイズを小さくしにくい」「設計が難しいので高価格になりやすい」という難点がある。 なので価格やサイズなどの条件を加味した上で、可能な範囲で大きいドライバを選ぶことが折衷案ということになる。